2025年6月28日、「ふくしまの今を語る人・オンライン講演会」(10時30分~12時)を実施しました。「ふくしまの今を語る人」は、福島県が事務局を務める事業で、“食と放射能に関して、消費者が不正確な情報や思い込みに惑わされることなく、自らの判断で食品の選択ができるように、福島県の農林水産関係者等が、放射性物質低減の取組や検査の状況、生産者の思い等を説明・紹介し、消費者と生産者との理解・交流を図る”ことを目的に開催されています。
当日は、事務局から福島県の観光や震災後の状況についての説明があり、続いて「マルカワ水産・海の雅 かわせ代表」の川瀬 洋(カワセ ヒロシ)氏から『よく〝請戸もの″の良さを聞かれる。それは、食えば分かるさ』というテーマでお話をしていただきました。
川瀬氏は福島県二本松市出身で、横浜のお寿司屋さんで修行。その後、二本松市に戻り、36歳で二本松駅前に創作居酒屋「海の雅 かわせ」を出店、お客様に最高の魚料理を提供するために仲買人の許可まで取って、請戸漁港で水揚げされる魚を提供しています。
そんな川瀬氏が請戸の魚について熱い思いを語って下さいました。
二本松市出身、子供の頃から、釣りとか海水浴だとかでずっと請戸に通った結果、出会ったのが“請戸もの”だったそうで、「料理人のキャリアを磨くために横浜で働いていた時も“請戸もの” に敵うものには出会えなかった。だから地元に戻って自分の店をオープンする時、最高の魚料理を出すなら“請戸もの”を使うしかない。そう決めました」と語る川瀬氏。いまも新鮮な魚介を手に入れるために浪江町の請戸漁港へ通う。川瀬氏に言わせると「“請戸もの”の良さってよく聞かれるけど、まず包丁を入れた時の感触が違う。筋肉質だからスパッといく。刺身以外も煮る・焼く・揚げる…何をしても魚本来の旨味がギュッと凝縮される」とのこと。
“請戸もの”で有名なのはヒラメ・カレイやシラウオ・シラスですが、甲殻類や貝類、最近はアンコウやタコなども人気だそう。「“請戸もの”を一言でいうなら… 食えば分かるさ」と言い切る。経験に裏付けられたプロの料理人としての自信が漲っていました。
請戸漁港は福島県双葉郡浪江町の最東端、請戸川河口 に築造された河口港で、福島県浜通り地方のほぼ中央 に位置しています。福島県沿岸の海は北からの親潮と南からの黒潮がぶつかる「宝の海」とも言われ、ヒラメやカレイ、 スズキ、アイナメ、シラスなど約100種類もの魚介類が水揚げされます。特に請戸漁港で水揚げされた魚は、ブランド品として市場でも高い評価を受けてきました。
2011年、東日本大震災で請戸漁港のある地域は、津波による甚大な被害を受けました。死者・行方不明者は119人、漁港も壊滅的被害で崩壊状態になりました。
川瀬氏は「請戸が津波で大被害を受けたことをテレビの映像で知り、『請戸は終わった・・』と思った。追い打ちをかけるように福島第一原子力発電所の事故があり、一時は魚屋を続けられないと思った。しかし、常連さんの『やめないでほしい』と声に助けられ店を続けてきた」と語ります。
2019年10月港湾施設、11月に漁港の復旧が完了。請戸港での漁業が再開しましたが、現在でも漁船の数は震災前の3分の1の29隻。廃業した漁民も多く、まだまだ本来の姿には戻っていないそうです。
それでも請戸の漁民たちは、県内・県外に対して請戸もののブランド化プロモーションを行い「請戸漁港の完全復興を目指し頑張っている」と。
川瀬氏のお話で興味深かったのは、「原発による風評被害の影響はないとは言えないが、それよりも温暖化の影響で海水温が上昇していることが一番の問題。水揚げする魚も、昔とずいぶん変わった、高級なフグやイセエビなどが獲れるようになったが、鮭はほとんど獲れなくなった。その結果水揚げ量は減少し、魚の価格は高騰している」という現実。
風評について「福島の食品はモニタリング検査が行われて“安全”は保障されている。“安心”を生むのは生産者の顔が見える流通仲買人が漁師を信頼して購入し、それを【仕入~調理~提供】できるからこそ。一番大事なこと、伝えたいことは、
①風評は致し方ない。いくら良いものと伝えてもダメなものはダメ、どうしても覆らない。良いものだと思っている人に今まで以上に良いものを提供していきたい。そこから横のつながり(口コミ)で広がることで信ぴょう性が高まる。良いと思うものはぜひ情報を共有してほしい。
②良いものを提供したいという思いから無我夢中に行動してきた。自分自身の信念を貫くことで消費者に対しても思いが届くと思う。
③生産者は自分の商品に対して、自分の行動を迷わず自信をもって行動してほしい。
と語ってくれました。
川瀬氏の講演は請戸の魚に対する熱い思いがあふれ、非常に感銘を受けました。
【参加者からの感想】
・機会が有れば、川瀬氏の提供する請戸もののお料理を二本松のお店にぜひ食べに行きたいと思った。
・「生の声」はとても参考になります。・福島の食材にますます魅力を感じました。ご苦労も沢山あると思いますが、これからも食材の提供の為、頑張っていただきたいです。
・講師の方の心意気が直に伝わってきました。
・実際に見たことや体験したこと、温暖化の影響について具体的な状況を教えてもらえたことは貴重でした。お寿司やおさかなが美味しそうで、ぜひ訪れたいと思いました。
・福島の食品に若干の不安を持っていましたが、今後は応援もかねて積極的に購入したい。
・福島の現状を聞くことができて、福島産に対する不安が払拭され、安心して食べられることを知った。
・対話形式は、わかりやすく、とても良かったです。是非、請戸に行ってみたいと思いました。
◆ふくしまの食相談センターでは「第2回視察会」として、2025年9月13日(土)に「東日本大震災・原子力災害「伝承館」と震災遺構「請戸小学校」、請戸港近くの柴栄水産、そして浅野撚糸*タオル工場を視察する予定です。興味のある方はぜひご参加ください。